住宅手当は非課税になる? 課税金額のシミュレーション・代替案を解説
住宅手当制度は家賃補助制度や引っ越し手当など従業員の住まいに関する費用を補助する制度です。
しかし、住宅手当制度は国の税制度の関係上、給与所得として見なされるため所得税や社会保険料の負担が増加します。
この記事では、課税される場合にはいくらコストが増加するのか、住宅手当が非課税になるケースはあるのかを解説していきます。会社の負担額を非課税にできる他の住宅関連の福利厚生も紹介しているので、ぜひ最後まで読んでみてください。
住宅手当制度の種類
住宅手当制度は従業員の住まいに関する費用を補助する制度です。
法定外福利厚生制度であり、、導入の可否や支給する条件、対象者および内容については企業が自由に設定できます。そのため、一口に「住宅手当制度」といっても支給する支出の対象や制度の違いがあります。
ここでは住宅手当制度の中でも代表的なものを2つ紹介します。
家賃補助
家賃補助制度とは賃貸住宅に住む人を対象に、家賃の一部を補助する制度のことです。企業および自治体により提供されています。
多くの企業は、「勤務地から〇km以内に住む従業員には毎月〇万円を支給する」といったように、住宅までの距離や時間を条件にしています。また、家賃補助を適用する住宅が賃貸であることを条件にしている企業も多いです。他にも、従業員が世帯主であることを条件に指定している場合もあります。
また最近の傾向として、リモートワークで働いている方は支給の対象外になることもあるほか、同一労働同一賃金の流れから廃止することを決める企業もあります。
引っ越し手当
引っ越し手当には、転勤など主に会社都合の引っ越しを行う時に業者に支払う料金や入居前の消毒費・各種保険料・鍵交換費用などが該当します。
引っ越し料金は繁忙期や、転居先への移動距離によっても変わりますが、一般的にかかる費用は単身者で5〜10万円程度です。引越し業者に支払う料金だけでなく、引っ越し先までの交通費や引っ越し先の住居の敷金や礼金などの初期費用を支給している企業もあります。
住宅手当は課税される
国税庁は企業が従業員に支払う手当を、一部を除いて原則給与所得として扱うと定めています。
参考:国税庁 No.2508「給与所得となるもの」
そのなかでも住宅手当は給与所得になると明記されており、非課税にはできません。また、会社から支給する給与には所得税がかかります。累進課税制度が適用されるため、給与が上がるにつれて税額も大きくなっていきます。社会保険料の料率は固定ですが、所得が増えると支払う金額が大きくなる点は変わりません。
例えば企業側が従業員に対し月2万円を住宅手当として支給している場合、年間で2万円×12ヶ月=24万円分の所得税や社会保険料が増額されます。そのため、従業員の所得税や社会保険料の負担が重くなってしまう点には注意しましょう。また、社会保険料は従業員と会社が折半して支払うため、企業の負担も増加する点に注意してください。
住宅手当の実際の課税額とは
実際に住宅手当を支給することで、企業や従業員の課税額がどのくらい変化するかをシミュレーションします。なお、所得税は累進課税制度であり、所得金額の範囲により税率が異なるため、課税される額も以下の表のように変わってくるので注意が必要です。
課税される所得金額 | 所得税率 |
1,950,000円未満 | 5% |
1,950,000円以上3,300,000円未満 | 10% |
3,300,000円以上6,950,000円未満 | 20% |
6,950,000円以上9,000,000円未満 | 23% |
9,000,000円以上18,000,000円未満 | 33% |
18,000,000円以上40,000,000円未満 | 40% |
40,000,000円以上 | 45% |
出典: 国税庁「No.2260 所得税の税率」
なお、ここでは復興特別所得税は除いて計算します。
平均給与は国税庁が公表している443万円を使います。したがって、所得税率は20%です。
参考:国税庁「令和3年分 民間給与実態統計調査」
住宅手当が支給されない場合の所得税額と社会保険料
はじめに、平均給与から給与所得控除額を算出します。以下の表のように、計算式は支給される給与によって異なります。
給与等の収入金額(給与所得の源泉徴収票の支払金額) | 給与所得控除額 | |
1,625,000円まで | 550,000円 | |
1,625,001円から | 1,800,000円まで | 収入金額×40%-100,000円 |
1,800,001円から | 3,600,000円まで | 収入金額×30%+80,000円 |
3,600,001円から | 6,600,000円まで | 収入金額×20%+440,000円 |
6,600,001円から | 8,500,000円まで | 収入金額×10%+1,100,000円 |
8,500,001円以上 | 1,950,000円(上限) |
出典:国税庁「No.1410 給与所得控除」
前提条件と計算した結果を表にまとめると以下のようになります。なお、本計算結果には含まれていない税金や社会保険料もあるため、金額はおおよその目安としてください。
住宅手当なし | 住宅手当あり | 差額 | |
年間給与(令和3年分平均) | 4,430,000円 | 4,430,000円 | − |
住宅手当 | 0円 | 360,000円 | − |
給与所得控除 | ▲1,326,000円 | ▲1,326,000円 | − |
基礎控除 | ▲480,000 | ▲480,000 | |
厚生年金保険料(折半) | ▲395,280円 | ▲450,180円 | 住宅手当により年間54,900円増加 |
所得金額 | 2,228,720円 | 2,461,820円 | − |
所得税 | 445,744円 | 492,364円 | 住宅手当により年間46,620円増加 |
※復興特別所得税および子ども・子育て拠出金は除く
※社会保険料は厚生年金保険料のみで計算する
詳しい計算方法は以下のとおりです。
最初に、給与443万円から給与所得控除額を算出します。
4,430,000円×0.2+440,000=1,326,000円
社会保険料は厚生年金保険料のみで計算します。厚生年金保険料は控除の対象で、2022年12月時点で一律18.3%です。2022年4月1日より、子ども・子育て拠出金を事業主が全額負担することになっていますが、ここでは除いて計算します。
参考:日本年金機構「令和2年9月分(10月納付分)からの厚生年金保険料額表(令和4年度版)」
厚生年金保険料は、日本年金機構の早見表をみればわかります。平均給与443万円の場合、月額の標準報酬は360,000円になり、企業と従業員で折半する場合の支払い額は月あたり32,940円(年額395,280円…(1))です。
平均給与から給与所得控除額と基礎控除・社会保険料をひいて、所得金額を算出します。
4,430,000円-1,326,000円-480,000円-395,280円=2,228,720円
所得税率である20%をかけると以下のようになります。
2,228,720円×0.2=445,744円…(2)
以上より、年間給与が443万円で住宅手当が支給されない場合の所得税額は、445,744円です。
次に、住宅手当を支給する場合の所得税を算出します。住宅手当を月に3万円支給する場合、年間で360,000円が支給されることになります。したがって、給与所得は以下のようになります。
4,430,000円+360,000円=4,790,000円
あとは先ほどと同じ方法で計算していきます。
・給与所得控除額:4,790,000円×0.2+440,000=1,398,000円
・社会保険料(折半):厚生年金保険料額表より450,180円…(3)
・所得金額:4,790,000円-1,398,000円-480,000円-450,180円=2,461,820円
・所得税:2,461,820円×0.2=492,364円…(4)
住宅手当が支給される場合の所得税額(4)から上で求めた所得税額(2)を引くことで、所得税の差額を算出できます。よって、所得税の差額は年間で約4.7万円です。
さらに、社会保険料の増額分は、上で算出した(3)から上の(1)を引くことで算出します。その差額は年間で約5.5万円です。企業の場合は支給している人の数だけ負担が増加します。もし50人に支給しているなら、年間で約275万円も多く徴収されていることになります。
住宅関連の補助を非課税にする方法
住宅手当は非課税にならないため、支給した分だけ税金や社会保険料の負担額が増加します。そこで、従業員に住宅関連の補助を提供しつつ、かかる費用を非課税にする借り上げ社宅制度を紹介します。
借り上げ住宅を提供する
借り上げ社宅制度とは、企業が賃貸物件を契約し、従業員に貸し出す制度のことです。福利厚生のひとつとして、多くの企業に導入されています。一定の条件を満たす必要はありますが、節税によるコスト削減を検討されている担当者は検討すべき制度です。
現金を支給する住宅手当に対して借り上げ社宅は、企業が家賃の一部を負担し、残りを従業員から徴収することで住宅費を支援します。従業員に負担させる金額が一定の割合を超えていれば、負担額を福利厚生費として計上できるため税負担が減ります。従業員は家賃を徴収される分、見かけの所得が減り、税金や社会保険料の負担額が低くなります。つまり、借り上げ社宅を提供することで、企業と従業員の両方の課税額を軽減できるのです。
とはいえ、借り上げ社宅にもデメリットがあります。それは、社宅の物件探しから契約・入居後のサポートまで社内で対応する必要があることです。さらに、不動産会社への支払い業務や更新手続きなど、不動産に関する業務が増加します。新入社員が入社してくる時期は業務が集中し、社内のリソースが足りなくなる可能性もあるため、アウトソーシングすることもあらかじめ検討しておきましょう。
条件をクリアして借り上げ社宅の家賃を非課税にする
借り上げ社宅の家賃を非課税にするには、条件をクリアする必要があります。達成すべき条件は、役員に貸す場合と従業員に貸す場合で異なります。従業員の場合、賃貸料相当額の50%以上を従業員から徴収することで、会社負担分を非課税にできます。
なお、賃貸料相当額は、実際に支払う家賃よりも低くなる傾向があるので、従業員から家賃を50%徴収しなくても非課税になるケースが多いようです。詳しくは、こちらの記事「借り上げ社宅の家賃の相場や負担するメリットを解説!設定ポイントも紹介」を参考にしてください。
住宅手当は非課税にできない!社宅制度を検討しよう
住宅手当は支給対象が広く、従業員に喜ばれる制度ですが、企業・従業員ともに課税の対象となり税負担が重くなるデメリットもあります。一方、借り上げ社宅制度は基準を満たしてさえいれば、会社が負担する分の賃料を非課税にできます。さらに、従業員の税負担を軽くすることも可能です。
しかし、社宅を準備するには物件探しから入居後のサポートまでする必要があり、人事・総務の担当者の負担が増加します。特に繁忙期は手が回らなくなるなど、懸念すべき点もあるため、アウトソーシングによる業務負荷軽減の対策をあらかじめ検討しておきましょう。
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※本記事内の情報は2023年1月時点のものです。