借り上げ社宅とは? メリットやデメリット・注意点・他制度との違い【社労士・中小企業診断士がコメント】


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借り上げ社宅は節税効果だけでなく、就活生へのPRや安定性を求める従業員の声に応えるなど時代にあった福利厚生制度のひとつです。

企業と従業員に与える様々なメリットは結果として企業の業績アップやエンゲージメントの向上にも繋がります。

そこで本記事では、借り上げ社宅とはどういった制度なのかを、メリットやデメリット、注意点などとともに紹介します。

借り上げ社宅とは

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借り上げ社宅とは企業が不動産事業者や大家さんから賃貸物件を借り、一部家賃を会社負担することで従業員に低価格で貸し出す制度のことです。福利厚生として取り入れている企業も多く、住宅手当と並んで従業員にニーズのある制度の一つです。

しかし、借り上げ社宅といっても各不動産会社によって住宅やサービス内容に違いがみられます。そこである企業の借り上げ社宅の一部を紹介します。

借り上げ社宅A
最寄り駅 3駅からのアクセスができ、最短3分
間取り 1R
面積 24.03㎡
築年月 2014/8
構造 RC(鉄筋コンクリート)
方位
共用部の設備 ・敷地内ごみ置き場
・24時間ごみ出し可
・オートロック
・防犯カメラ
・宅配ボックス
部屋設備 ・インターネット
・浴室乾燥機
・モニター付きインターホン
・バストイレ別
・洗面台独立
・床暖房

このように借り上げ社宅は女性でも安心できる防犯対策も講じられており、物件によっては家具が備えつけられているケースもあります。

借り上げ社宅を導入するメリット

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借り上げ社宅は企業・従業員の双方にとって魅力がある制度ですが、どういったメリットがあるのでしょうか?借り上げ社宅の導入に悩んでいる担当者の方はぜひ参考にしてください。

節税の効果が得られる

借り上げ社宅を利用することで企業は所得税と社会保険料を抑えられます。加えて従業員は、福利厚生を受けながら手取り金額を増やすことができます。

企業側の節税の効果

企業が節税の効果を得られる理由は、支払う分の賃料を損金として処理できるからです。借り上げ社宅として払う賃料は福利厚生費用に該当し、給与にはなりません。つまり賃料分の社会保険料を払う必要がなくなるのです。

従業員側の節税の効果

通常、従業員は受け取った給与から家賃を支払います。

一方、社宅制度を利用する場合、会社が負担する家賃の分を給与から差し引くことができ、所得税と社会保険料の支払い額を小さくできます。これにより、従業員は住宅を補助する福利厚生を受けながら節税が可能になるのです。見かけの報酬は減少しますが、給与から家賃を支払う場合と比較すると手取り額が増えます。

社員の生活安定につながる

一般的に住宅にかける費用は生活費の4分の1から3分の1が理想と言われています。生活費の大部分を占める住宅費用は家計にとって重要な項目です。特に都心部や首都圏に住む場合の住宅費は他地域よりも高くなります。

新入社員や若手社員にとっては負担が大きくなるため、就職しても生活に余裕が持てないでしょう。そのような方にとって借り上げ社宅は生活の質を安定させてくれるうれしい制度です。

【社労士によるコメント・実際の企業の事例①】

大阪市内に本社のある卸売業の企業では、新卒採用を毎年実施するなど若手人材を積極的に採用していますが、若手社員を中心とした借り上げ社宅制度を導入して以降、若手社員の定着率が向上しました。 就職を機に親元を離れて一人暮らしをしようと考える人は少なくなく、若手であるが故に高いとはいえない給料から家賃を負担することは楽ではありません。会社が家賃の補助をしてくれることで可処分所得が拡大し、そのことが満足度の向上につながっていると考えられます。

大庭真一郎氏(中小企業診断士、社会保険労務士、大庭経営労務相談所 代表)

社員のエンゲージ向上につながる

借り上げ社宅を提供することで、社員の生活に金銭的な余裕を持たらします。結果、プライベートの時間が充実し、従業員のエンゲージメント(会社への愛着や貢献心)も向上するでしょう。社員のエンゲージメント向上は持続的な企業の成長に欠かせないことだと言われており、組織の団結力や業績をアップさせることも報告されています。従業員の離職率を低下させる効果も十分に期待できるでしょう。

【社労士・中小企業診断士によるコメント・実際の企業の事例②】

IT業種のある企業は、会社の所在地に近い場所にある物件を社宅として借り上げ、社員が利用できるようにしました。 IT業界は開発スケジュール遵守やトラブル対応などが原因で、遅い時間まで仕事をしなければならないことが少なくなく、体が疲弊することで会社への帰属意識が低下する社員もいました。しかし通勤時間の短縮により体が楽になったことで、エンゲージメントを向上させた社員の数が増えました。

大庭真一郎氏(中小企業診断士、社会保険労務士、大庭経営労務相談所 代表)

採用時に福利厚生の充実をPRできる

借り上げ社宅制度を導入していることは、採用時に福利厚生の充実をPRできる大きなポイントです。マイナビキャリアリサーチLabの「2023年卒大学生就職意識調査」によると、就活生が企業選択の際に重要視していることは「安定している」が最多であり、企業に安定性を感じる要因は「福利厚生が充実している」であると報告されています。つまり、社宅制度を導入しているかどうかが応募の分岐点になることも十分考えられます。

優秀な人材を確保するためには、応募者を増やすことが重要です。時代にあった福利厚生を導入していれば学生にアピールできるでしょう。

住宅や付帯設備の管理がいらない

会社で物件を保有して従業員に貸し出す場合、設備を管理する手間や修繕費用が発生します。しかし、借り上げ社宅を導入することで、付帯設備管理などの複雑な業務から解放されます。というのも、これらの業務を不動産会社に任せられるからです。借り上げ社宅は制度を利用する人の数で費用が決まりますが、物件を保有している場合は必ず固定費が発生します。

たくさんの人材採用が見込めず、社員のニーズも多様化している時代では、より柔軟性の高い借り上げ社宅のほうが得られるメリットが大きいでしょう。

借り上げ社宅を導入するデメリット

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借り上げ社宅の導入にはデメリットもあります。制度を運用し始めてから後悔しないためにも把握しておきましょう。それぞれ詳しく解説していきます。

物件探しや手続き・従業員のサポートの手間が発生する

借り上げ社宅制度を運用していくには、物件探しから始まり、入退去時まで従業員をサポートする必要があります。従業員一人ひとりに対応する必要があるため、社宅運用を担当する社員を用意しなければいけません。物件はただ探せばよいわけではなく、社内規程の範囲内かをチェックする必要があります。

また、賃貸物件の契約書の確認や条件の交渉など、不動産の専門知識が必要になる場面もあります。このように、社宅制度を運用していくためにはかなりの工数がかかります。

空き部屋でも家賃を支払う必要がある

急な異動や退職で借り上げ社宅に空き部屋が発生した際、その部屋の家賃は発生したままになります。つまり空き部屋が多くでてしまうと、その分余計に経費がかかってしまいます。理想としては空き部屋が無いように管理できればいいのですが、現実的にはそうありません。雇用形態によっては、マンスリーマンションのように契約期間の短い物件を更新しながら使う方法も検討してみてください。

なお、近年では社宅のサブスクリプションという新しいサービスも出てきています。人材の流動性が高いなど、解約のリスクが心配であれば柔軟に対応できるサービスを選ぶとよいでしょう。

解約時に違約金がかかることもある

借り上げ社宅は長期的に利用することを条件に安い賃金で提供されているケースもあります。

契約期間内に解約する場合は違約金がかかることが一般的です。長期契約を結ぶ際には目先の賃料だけでなく、解約時のリスクも考慮しながら検討しましょう。

【社労士・中小企業診断士によるコメント】

これらデメリットへの効果的な対応として考えられることは、社宅の運用管理に関する業務を外注化することです。 社外の社宅提供サービスを利用することで、空室が生じた場合のカラ家賃発生や契約期間内の解除による違約金発生などのリスクを回避することができ、物件の保守負担も軽減されます。 社会保険料を計算する上での現物給与額や社員が負担する家賃相当額の計算、社内規程の検証なども、税理士や社会保険労務士に相談することで的確な対応が可能です。

大庭真一郎氏(中小企業診断士、社会保険労務士、大庭経営労務相談所 代表)

借り上げ社宅制度を導入するときの注意点

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借り上げ社宅の制度を導入する際に注意すべきポイントを解説します。制度を最大限に活用するのに役立つヒントになるので、最後まで読んでみてください

規程を定めておく

借り上げ社宅制度を福利厚生として全従業員に適用する場合は規程を作成しましょう。適用する条件や使用上のルールを明確にしてください。さらに、よくあるトラブルに関する条項も記載しておきましょう。

社宅でよく発生するトラブルには以下のようなものがあります。

・利用状況のチェック
・同棲への対応
・転勤時の制度利用ルール

現状確認や契約者以外の同居など、相談の多い事案への対応をあらかじめ記載しておき、入居時に説明しておきましょう。

【社労士・中小企業診断士によるコメント・規定の例】

居住に関わる費用負担に関しては、たとえば以下のような規定を設けることが効果的です。

大庭真一郎氏(中小企業診断士、社会保険労務士、大庭経営労務相談所 代表)

第○条(費用負担)
使用者は、居住に関わる以下の費用を負担しなければならない。
①電気、ガス、水道等の光熱費
②町内会費
③その他会社が入居者の負担を必要と認めた費用

同居が可能な者に関しては、たとえば以下のような規定を設けることが効果的です。

大庭真一郎氏(中小企業診断士、社会保険労務士、大庭経営労務相談所 代表)

第○条(同居人の範囲)
借り上げ社宅で同居することができる者は、原則以下に掲げる者とする。
①配偶者
②子
③本人及び配偶者の親

借り上げ社宅の家賃設定

借り上げ社宅にかかる費用が課税対象になるかどうかは、徴収する賃料の金額によります。非課税になるのは、賃貸料相当額の50%以上を従業員に負担させた場合です。社宅を従業員に貸す場合、賃貸料相当額は以下の3つの計算式を合計して算出します。

(1)(その年度の建物の固定資産税の課税標準額)×0.2パーセント
(2)12円×(その建物の総床面積(平方メートル)/3.3(平方メートル))
(3)(その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×0.22パーセント

出典:No.2597 使用人に社宅や寮などを貸したとき

【社労士・中小企業診断士によるコメント】

例えば、以下の物件を社宅として借り上げている場合の賃貸料相当額の計算は、以下の通りとなります。

・対象物件は総床面積165㎡の戸建て住宅
・建物の固定資産税の課税標準額は1000万円
・敷地の固定資産税の課税標準額は3000万円
賃貸料相当額=1000万円×0.2%+12円×165㎡÷3.3㎡+3000万円×0.22%=86,600円

よって、従業員が43,300円以上の家賃を負担している場合は、会社の家賃負担部分は非課税扱いとなります。

大庭真一郎氏(中小企業診断士、社会保険労務士、大庭経営労務相談所 代表)※計算式も含む

なお、借り上げ社宅の家賃の相場は、こちらの記事 「借り上げ社宅の家賃の相場や負担するメリットを解説!設定ポイントも紹介」 でも解説しています。ぜひ参考にしてください。

福利厚生における借り上げ社宅以外の制度

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住宅に関わる福利厚生は借り上げ社宅以外にもあります。借り上げ社宅と比較検討するためにも、他の制度の特徴を把握しておきましょう。

社有社宅

社有社宅とは、物件を会社が所有し、従業員に貸し出す制度のことです。物件を買い上げるか、保有している土地にマンションやアパートを建てることで社宅を用意します。社有社宅のメリットは毎月の家賃の支払いが発生しないところでしょう。

一方で建物や設備の管理が必要になるなど、借り上げ社宅と比較すると柔軟性が低いのが欠点です。

住宅手当

住宅手当は社宅と異なり、給与に上乗せする形で住居費の一部を支給する福利厚生です。給料へ上乗せする分、税金や社会保険料の支払いが増えるのが欠点です。在宅勤務の拡大や同一労働・同一賃金の施行により、制度を廃止する企業が増えている福利厚生です。

詳しくはこちらの記事「住宅手当とは?代表的な種類と導入するメリット・デメリットを紹介」を参考にしてください。

借り上げ社宅は企業と従業員の両方にうれしい福利厚生

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借り上げ社宅は節税効果だけでなく、就活生へのPRや安定性を求める従業員の声に応えるなど時代にあった福利厚生の制度です。

借り上げ社宅を導入する事で得られるメリットは以下のとおりです。

・節税の効果が得られる
・社員の生活安定につながる
・社員のエンゲージ向上につながる
・採用時に福利厚生の充実をPRできる
・住宅や付帯設備の管理がいらない

これほど多くの魅力があるので、福利厚生の充実を検討されている人事担当の方は、ぜひ導入を検討してみてください。

マイナビBizでは借り上げ社宅に関する契約や管理業務だけでなく、入居時の立会いやサポートなど、他社は積極的に行っていない範囲にも対応しています。借り上げ社宅にご興味のあるご担当者様は、ぜひお気軽にお問い合わせください。

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(マイナビBiz編集部)
※本記事内の情報は2023年1月時点のものです。

【コメント専門家プロフィール】
大庭真一郎 氏
中小企業診断士、社会保険労務士、大庭経営労務相談所 代表
1965年、東京都出身。東京理科大学卒業後、民間企業勤務を経て、1995年4月に大庭経営労務相談所を設立。「企業のペースで運用できる解決策を企業と共に考え、企業と共に行動する」ことをモットーに、関西地区を中心として、企業に対する経営支援業務を展開。支援実績多数。


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