成年後見制度とは? 家族信託との違いや併用を解説
2021年6月29日
前回は、家族信託について基本的な仕組みを紹介しました。説明の中で「認知症」に関して少し触れていましたが、「認知症」と聞いて「成年後見制度」が頭に浮かんだ方もいらっしゃるのではないでしょうか。 今回の記事では、成年後見制度の特徴や財産管理をする視点からのメリット・デメリットについて、司法書士の廣木涼氏に教えていただきました。家族信託との併用や違い対比させながら説明をしていきたいと思います。
1.成年後見制度って何?
まず、成年後見制度の概要についてご説明いたします。
成年後見制度とは、すごく簡単に言えば「判断能力が低下した方に代わって、財産の管理をする人を、家庭裁判所が選ぶ制度」のことです。成年後見制度には「法定後見制度」と「任意後見制度」の2種類があり、法定後見制度は判断能力の低下の程度により、「後見」「保佐」「補助」とさらに3つの種類に分けることができます。
それでは、どのような場合にこの制度を利用することができるのでしょうか。
廣木氏は下記の例を挙げて説明してくれました。
例えば、父親が認知症になってしまったとします。そうすると、子どもなど家族が「父に代わって法律行為や財産管理をする人を選んでください」という旨を家庭裁判所に申し立てます。家庭裁判所の審判があれば後見人の業務がスタートする、というわけです。ここで注意しておきたいのは、「認知症等により判断能力が低下してから申し立てをする」という点です。家族信託は元気なうちに契約を交わしておくものですが、法定成年後見制度は元気なうちに申し立てることはできません。
後見人にはどのような人がなるのでしょうか。親族を後見人にするように申し立てることも可能ですが、専門職資格者の方が成年後見事務等の知識が豊富であるという理由もあり、現在、後見人の7割は家庭裁判所が選んだ弁護士などの専門職資格者が就任しています。近年、後見人となるにふさわしい親族等の身近な支援者がいる場合は,その親族を後見人に選任していく方向にシフトしつつあるようですが、必ず親族が選任されるわけではないようです。
もし、どうしても親族にしたい、というのであれば、任意後見制度を利用することができます。これは家族信託と同様、元気なうちに、自分に何かあった時に親族など自分の後見人になってほしい人を後見人にできるように事前に契約をしておく制度です。家族信託同様、認知症になってしまった後は契約することはできず、「元気なうち」にしかできない点と実際に任意後見人の任務が開始するときには、後見監督人として専門職が選任されるという点で注意が必要です。
2.成年後見制度でできること・メリット
成年後見制度を使うことによって、どんなことができるようになるのでしょうか。
①財産管理ができる
成年後見人は、本人に代わって預貯金や不動産の管理を行うことができます。認知症発症による預貯金の口座凍結リスクを回避できます。家族信託でも同様に預貯金や不動産の管理を行うことができますが、その場合は受託者の名義に変更する必要があります。
②身の回りのことに関する法律行為を行える
成年後見人は本人に代わって、生活、医療、介護、福祉等、本人の身の回りの事に関する事務(法律行為)を行うことができます。例えば、施設に入ることになった場合の入退所契約などです。家族信託は、財産管理に関する契約ですので、このような身の回りの契約関係などを代わりに行うことはできません。後見制度ならではの特徴と言えるでしょう。
③取消権がある
もし、本人が悪質商法の被害に遭い、不当に高額な商品を購入してしまった、または不動産などを売却してしまった場合であっても、成年後見人はその契約を取り消すことができます。こちらも、家族信託の受託者にはできない行為です。もし被害に遭ってしまったとしても安心ですね。
3.成年後見制度でできないこと・デメリット
一方で、成年後見制度を使うとやりにくくなってしまうことやデメリットもあるようです。ここでは3つご紹介します。
①財産の運用や処分ができない
成年後見人は、本人の財産を「守る」ための制度です。あくまでも「現状維持」に主眼を置いているため、孫に現金を贈与していくというような場合も、本人の財産を減らす行為になるため、原則認められないということになりますし、介護施設に入所する資金にするためにご自宅を売却する場合は、家庭裁判所の許可が必要になります。つまり、家族信託と違い、不動産の売却や購入などを行うことが難しく、本人とご家族が相続税対策を引き続き行っていきたいと考えている場合であっても、相続税対策は本人の財産を減らす行為になるため、後見人が就任するとそれができなくなってしまいます。
②家族以外の第三者(専門職後見人)が就任する可能性がある
これは家族の心情的な話になってきます。家族内で財産を守っていきたいと考えているのに、専門職後見人が本人の財産管理をする可能性があるため、家族の意向とは合わない財産管理方法になること、家族の財産に関与することを嫌がる方もいらっしゃいます。実際に、この点を懸念して家族信託を選択される方も多くいるとのことです。
③後見人報酬(ランニングコスト)がかかる
後見人に対して報酬が発生する場合があります。特に専門職後見人が就任した場合には、その後見人に対して、月額の報酬を支払わなければなりません。財産状況等によってその金額は変動しますが、おおよそ月々2万円~5万円と言われています。たとえ、後見人として家族が就任した場合であっても、後見監督人として専門職が就任する可能性があり、その場合も月額の報酬として、おおよそ月々1万円~3万円を支払うことになります。また、後見人は一度就任すると、原則途中でやめることはできません。つまり、本人が亡くなるまでずっと続くわけです。亡くなるまでの期間にもよりますが、仮に月3万円の報酬で10年間続いた場合、報酬だけで総額360万円となります。一方、家族信託では、受託者に対する報酬については原則自由に定めることができます。報酬を無償にしておけば、このような継続的な費用の発生を抑えることができます。
4.家族信託と後見制度の併用は可能か?
ここまでで、成年後見制度のメリット・デメリットは理解いただけたと思います。家族信託と成年後見制度、どちらの制度も特徴があり、できることとできないことがあります。では、どちらの制度も利用したい場合(財産管理は柔軟に行いたいが、身の回りの世話についても心配がある場合など)は併用することもできるのでしょうか。
結論から言いますと、家族信託と後見制度の併用は可能です。よくある事例としては、家族信託契約をするのと同時に、任意後見契約も結んでおく場合があります。財産管理については家族信託契約でカバーし、身上監護(施設の入退所契約、年金の引き出しなど)については任意後見契約でカバーしておくことが必要です。成年後見制度と併用してしまうと、受託者と後見人の権限が重複し、対立してしまう可能性もありますが、任意後見ではあらかじめ契約で権限の範囲を定めておくことができます。そうすることで重複の心配もないので、任意後見契約との併用がより安心できるでしょう。
以上、廣木氏に教えていただいた内容に基づき、家族信託と成年後見制度のそれぞれできること・できないこと、メリット・デメリットをご説明しました。
どちらが良いのかは、各ご家族のご状況によるとも言えます。ご家族の想いを実現していくために必要なことは何かを検討された上で、具体的な対策に進んでいくのがよろしいのではないでしょうか。
不動産会社を運営する私から見ると、家族信託の方が取引が容易でスピーディな印象があります。
時間がかかる、手続きが煩雑なことが原因で機会損失が発生する場合もありますので家族信託の有用性を理解し、活用されることをお勧めします。

神農貴大
不動産仲介・コンサルタント。所属していた管理会社では顧客にとって最適な提案をする「資産運用のコンシェルジュ」として活躍、不動産物件に留まらず保険や金融商品に至るまで幅広い知識と経験を持つ。また、自身でも物件を保有しており、オーナー目線での不動産投資動向も把握。
現在、代表取締役を務めるベスト・レギュレーション株式会社では東京23区を中心に透明性のある取引と安定した収益を提供することにこだわり不動産仲介・賃貸管理業を行う。

【取材協力】
廣木 涼(ひろき すずか)
司法書士/行政書士
東京・札幌・大阪・広島・福岡・沖縄に拠点を展開する司法書士法人みつ葉グループに所属。東京オフィスにおいて、相続事業部・登記事業部のマネージャーを務める。
不動産会社・保険会社と連携し、相続に関する総合的なコンサルティングサービスを提供し、士業の枠に捉われず、多角的な視野で問題解決に取り組んでいる。
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