サラリーマン大家さんのための令和2年分所得税確定申告(令和3年3月申告用)の注意点
2021年2月26日
会社勤めの方は、原則として会社で年末調整によって課税間関係が終了しているので、確定申告をする必要がないと考えている人もいるでしょう。ところが、投資用マンションなどを所有し他人へ貸し付けることによって不動産の収入を得ている方は、自分で不動産の収入や経費を集計し確定申告する必要があります。本コラムでは令和2年分の所得税確定申告につきその概要と誤りやすいポイントを解説します。
1.確定申告とは
1月1日から12月31日までの1年間に得た所得を10種類の所得に区分し、翌年の2月16日から3月15日までに申告・納税をしなければなりません。
この申告を「確定申告」といいます。今般、新型コロナウイルス感染症に関する対応等から令和2年分の確定申告期限が令和3年4月15日まで延長されました。
ここに「所得」とは、「収入」から「経費」を差し引いた「利益」のことをいいます。所得の種類は10種類あって、不動産の賃貸収入は不動産所得に該当します。所得の計算方法は所得の種類ごとに異なりますし、税率や申告書の様式も異なります。
2.所得の種類
10種類の所得を簡単にまとめると下記の通りです。
所得の種類 | 内容 |
①利子所得 | 預貯金の利子や公社債の利子などに係る所得 |
②配当所得 | 株式の配当や投資信託の収益の分配金などに係る所得 |
③不動産所得 | 土地や建物など、不動産の貸付に係る所得 |
④事業所得 | 農業・工業・小売業など自営業から生ずる所得 |
⑤給与所得 | 給料や賞与などに係る所得 |
⑥退職所得 | 退職金などに係る所得 |
⑦山林所得 | 所有期間が5年を超える山林(立木)の売却に係る所得 |
⑧譲渡所得 | 不動産や株式など、資産の売却に係る所得 |
⑨一時所得 | 生命保険金の一時金やクイズの賞金などに係る所得 |
⑩雑所得 | 年金収入などに係る所得 |
これら10種類の所得には、総合課税の対象となる所得と分離課税の対象となる所得があります。総合課税とはすべての所得を計算し合計した金額を課税の対象とする課税方法であり、分離課税とは所得の種類ごとに個別に課税対象とする課税方法です。
不動産所得は総合課税に分類されるため、確定申告では、不動産所得と給与所得などの所得を合算した合計所得に対して所得税を計算します。
3.確定申告書の種類
申告書の種類 | 申告の内容 | 主な対象者 |
申告書 A様式 | 給与所得、雑所得、配当所得、一時所得だけで、かつ、その年に予定納税をしていない場合 | ・給与収入がある人 ・年金の収入がある人 ・株式の配当がある人など ※不動産の賃貸や株の売却等をしている場合は該当しません |
申告書 B様式 | 所得の種類にかかわらず使用できる | ・不動産の賃貸をしている人 ・不動産の売却をした人 ・株の売却をした人 ・個人事業を営んでいる人 ・予定納税をした人など |
不動産所得の確定申告をする場合には、申告書B様式を使用します。申告は青色申告・白色申告どちらでも行うことができます。
4.給与所得の上限額変更
給与所得とは、俸給(※1)・給料・賃金・賞与・歳費(※2)などに係る所得をいいます。
※1:俸給=公務員が受ける給与 ※2:歳費=国会議員が受ける給与
給与所得は、「収入金額(総支給額)」から「給与所得控除額」を差し引いて計算します。
令和2年分以降の給与所得控除額は一律10万円引き下げられ上限額も195万円に引き下げられたので注意が必要です。
(令和元年分以前と令和2年分以後の給与所得控除額)
【給与所得控除額】
給与等の収入金額(年収) | 平成29年分〜令和元年分まで | 令和2年分以降 |
162.5万円以下 | 65万円 | 55万円 |
162.5万円越 180万円以下 | 収入金額×40% | 収入金額×40%ー10万円 |
180万円越 360万円以下 | 収入金額×30%+18万円 | 収入金額×30%+8万円 |
360万円越 660万円以下 | 収入金額×20%+54万円 | 収入金額×20%+44万円 |
660万円越 850万円以下 | 収入金額×10%+120万円 | 収入金額×10%+110万円 |
850万円超 1,000万円以下 | 収入金額×10%+120万円 | 195万円(上限額) |
1,000万円超 | 220万円(上限額) | 195万円(上限額) |
5.不動産所得の計算
不動産所得は、総収入金額から必要経費を差し引いて計算します。申告においては青色申告決算書(不動産所得用)または収支内訳書(不動産所得用)を使用して不動産所得を計算します。
不動産収入には、賃料収入、地代収入、権利金収入、共益費収入、礼金や更新料など名目如何に関わらず、賃借人から受領するもので返還義務のないものが原則として収入金額となります。
必要経費には、賃貸物件の固定資産税や都市計画税などの租税公課、賃貸物件の損害保険料や修繕費、借入金の金利や減価償却費などがあります。
6.不動産収入の留意点
①管理費や広告料の控除前で算出
不動産管理会社から送金される収入金額は、管理費や広告料などは控除されていますが、これらは必要経費として不動産所得の計算上控除するので、これら控除前の金額が不動産収入の金額となります。
②翌年1月分家賃の扱い
賃貸借契約上翌月分の家賃収入を当月に受領するのが一般的ですので、翌年1月分の家賃は翌年ではなくその年中12月分の不動産収入となります。
③敷金・保証金の扱い
敷金や保証金などは賃借人が退去時に返却しなければならないこととなっており、原則として不動産収入にはなりません。しかし、敷引きなどして返還されない部分は返還を要しないことが確定する年分の不動産収入となります。
7.不動産経費の留意点
①借入金の利子
借入金の利子は、原則として必要経費に算入できます。しかし、以下の2点の場合は例外となりますので注意が必要です。
・不動産所得が赤字の場合には、赤字のうち土地等を取得するために要した借入金利子部分は必要経費には算入できません。
・不動産所得が黒字の場合でも、土地等を取得するために要した借入金利子部分は所得金額がゼロになるまでしか必要経費に算入できません。
㋐建物3,000万円、土地2,000万円、合計5,000万円の物件を借入金4,000万円、自己資金1,000万円で購入した場合の年間利子40万円の区分方法


すなわち、利子40万円のうち10万円が土地等取得のために要した利息となります。
(計算例1)不動産所得50万円(利息控除前)年間利子40万円の場合

(計算例2)不動産所得33万円(利息控除前)年間利子40万円の場合

(計算例3)不動産所得▲10万円(利息控除前)年間利子40万円の場合

②減価償却費の計算
アパートやマンションなどの貸付のために供される建物や建物付属設備などの資産は、時の経過によってその価値が減少していきます。このような資産を減価償却資産といいます。ちなみに土地は一般に価値が減らないので、減価償却資産にはなりません。
減価償却資産は、その取得したときに全額必要経費になるのではなく、その資産の使用可能な期間の全期間にわたり分割して必要経費として計上していきます。使用可能な期間は法定耐用年数としてその資産や用途の種類などにより財務省令に細かく定められています。
住居用の建物で鉄筋コンクリート造りだと耐用年数は47年、建物付属設備となる給排水設備や電気設備工事は15年、消火、排煙、災害報知器は8年と定められています。資産の区分の仕方によって、減価償却費の金額が異なり、結果所得金額も異なるので注意が必要です。
③修繕積立金と修繕費
マンションなどの場合は、修繕積立金を支払いますが、積立金という名称から必要経費とならないように思われがちですが、一定の要件を満たすときは必要経費に算入することができます。管理組合に確認しましょう。
また、賃貸物件の冷暖房設備の修理や壁紙の張替えなど通常の維持管理のために支出した修繕費などは、全額支出したときの必要経費になります。ただし、避難階段の取り付けや増床工事などその資産の使用可能な期間を延長させるまたはその価値を増加させるような支出の場合は、減価償却資産として処理しなければならいので、注意が必要です。
このような支出を資本的支出といいますが、修理費や改良費などの名目ではなく、その実質によって区分されるため、修繕費と資本的支出の区分はその判断が難しく、税理士に相談するか税務署へ確認しましょう。
④青色申告特別控除
青色申告の承認申請を行いますと、青色申告を行うことができるようになります。青色申告には様々な特典があります。
その一つが青色申告特別控除という一定の要件を満たすことにより、10万円または55万円もしくは65万円の控除が認められる制度。どの金額の控除が認められるかについては、それぞれ要件があるので注意が必要です。
8.所得の合算と損益通算
サラリーマン大家さんは不動産所得と給与所得の源泉徴収票に記載された給与所得控除後の金額を合算して合計所得金額を求めます。
不動産所得金額が赤字となった場合は、給与所得の金額と相殺することが可能です。これを損益通算といいますが、これにより納めた税金の一定金額が還付されますので、確定申告をおこなうと有利になります。
9.所得控除
所得控除は一定の要件に該当する場合に一定の金額を控除できる制度であり、その概要は以下の通りです。合計所得金額から差し引くことができるので、所得控除が多いほど所得税は少なくなります。サラリーマン大家さんであれば、原則として源泉徴収票の所得控除の額の合計額に記載された金額となります。しかし、医療費控除などは年末調整では処理してくれないので自分で確定申告する必要があります。

令和2年分(令和3年3月申告用)から適用される改正事項のうち、配偶者控除、扶養控除等の所得要件の調整、基礎控除の見直し、ひとり親控除の創設と寡婦控除の見直しなど昨年分に比べ、大きく変わっているので注意が必要です。
10.所得税の計算
合計所得金額から所得控除を差し引いた金額に対して、下記の税率を乗することによって所得税を計算します。
【所得税の速算表】
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000円 から 1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円 から 3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円 から 6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円 から 8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円 から 17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円 から 39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円 以上 | 45% | 4,796,000円 |
(注)例えば「課税される所得金額」が700万円の場合には、求める税額は次のようになります。7,000,000円×23% – 636,000円= 974,000円
これに復興特別所得税が所得税の2.1%課税され、源泉徴収票に記載されている源泉所得税や予定納税などを差し引くとこの確定申告により納めるべき所得税が計算されます。
11.新型コロナウイルス感染症に伴い受領した給付金の扱い
新型コロナウイルス感染症に伴い、国や地方公共団体から受ける給付金についての税務上の取り扱いは国税庁ホームページに例示を含め詳細にまとめられていますのでご参照ください。例えば、下記の2つについては非課税とされています。
①特別定額給付金(基準日(令和2年4月27日)において住民基本台帳に記載されている者1人につき10万円)
②子育て世代への臨時特別給付金(児童手当を受給する世帯に対し、対象児童1人につき1万円)
12.改正点に注意して確定申告を
令和2年分所得税(令和3年3月申告用)は改正点が多くあります。これまで解説してきた内容は、重要と思われる事項の概要や一般的な注意点を説明したものです。正しく確定申告を行うために国税庁のホームペ-ジや税理士への相談、税務署への問い合わせを忘れずに行ってください。

小野 優(おの まさる)
税理士、経営コンサルタント。
大手監査法人系列国際会計事務所勤務、主に事業承継対策、組織再編などに従事。平成5年独立。企業の経営、税務、個人地主の事業承継指導に携わる傍ら、全国展開を図るスポ-ツ施設運営会社代表取締役社長、ワンルームマンションデベロッパー老舗会社取締役社長兼同系列不動産賃貸管理会社取締役社長、その他多くの中堅中小企業の役員を歴任。
ゆう総合会計事務所 所長、YOU Consultant株式会社 代表取締役。
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