低未利用土地等の譲渡に係る100万円特別控除の活用方法と注意点を解説
2020年9月7日
2020年7月1日より、低未利用土地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の100万円特別控除(以下、「低未利用土地等の100万円特別控除」と略)と呼ばれる節税特例がスタートしました。低未利用土地等の100万円特別控除は、不動産を売却したときに発生する税金を節税できる特例です。
まだ新しい制度であるため、制度の概要やメリット、注意点等がわからない方も多いと思います。
この記事では、所得税及び個人住民税の特例措置である「低未利用土地等の100万円特別控除」について、概要や活用方法、注意点を解説します。
1.低未利用土地等の100万円特別控除とは
低未利用土地等の100万円特別控除とは、500万円以下の不動産を売却したときに譲渡所得から100万円を控除できる制度です。
譲渡所得とは、個人が不動産を売却したときに生じる所得のことを指します。
譲渡所得の計算式を示すと以下の通りです。
譲渡所得 = 譲渡価額 - 取得費 - 譲渡費用 |
譲渡価額とは売却価額のことです。取得費とは、土地は購入額、建物は購入額から減価償却費を控除した価額のことを指します。譲渡費用は、仲介手数料や印紙税、測量費などの売却に要した費用です。
譲渡所得は、不動産の所有期間によって長期譲渡所得と短期譲渡所得の2種類に分けられます。
長期譲渡所得とは売却する年の1月1日時点において所有期間が5年超のときの譲渡所得、短期譲渡所得とは1月1日時点において所有期間が5年以下の譲渡所得のことです。
低未利用土地等の100万円特別控除は「譲渡価額が500万円以下」かつ「長期譲渡所得」のときに譲渡所得から100万円を控除してくれる特例になります。
【低未利用土地等の100万円特別控除を適用した場合の譲渡所得】
譲渡所得 = 譲渡価額 - 取得費 - 譲渡費用 |
500万円以下の取引が対象ですので100万円の控除のインパクトは大きく、かなり節税ができることになります。
不動産の売却では、譲渡所得がプラスであれば税金が発生し、マイナスであれば税金は発生しないのがルールです。
仮に低未利用土地等の100万円特別控除によって譲渡所得がマイナスとなれば、税金は生じないことになります。
低未利用土地等の100万円特別控除を利用するには、以下の要件を満たしていることが必要です。適用期間は、2020年7月1日から2022年12月31までに行う譲渡になります。
1.譲渡した者が個人であること。 2.譲渡の年の1月1日において、所有期間が5年を超えること。 3.譲渡価額の合計が500万円以内であること。 4.譲渡した物件が都市計画区域内にあること。 5.譲渡した物件が「低未利用土地等であること」および「譲渡後の土地等の利用」について市区町村長の確認がなされたものであること。 |
都市計画区域とは、都市計画法に基づいて計画的に街づくりを行うために指定された区域のことを指します。
イメージとして、ある程度の人口が存在するようなエリアであれば都市計画区域に指定されていますが、地方の山深い山林や大規模な穀倉地帯は都市計画区域外となっていることが多いです。
低未利用土地「等」となっていますので、空き家や空き店舗等の建物付きの不動産も対象となります。
また、「低未利用土地等であること」および「譲渡後の土地等の利用」について市区町村に確認書の交付を受けることも必要です。
市町村の確認書の交付を受けるには、申請時におおむね以下のような証明書類を要します。
証明内容 | 必要書類 |
譲渡する土地等が低未利用土地等であること | 以下のいずれかの書類 ・不動産会社が「現況更地」、「空き家」、「空き店舗」等と表示した広告 ・水道、ガス、電気の使用が、売買契約日の一定期間以上前に中止されている旨が確認できる書類 ・空き地・空き家バンクの登録が確認できる書類 ・上記の書類を提出できない場合は、低未利用土地等であることについて不動産会社が署名押印した書面 |
買主に土地等の利用意向があること | 買主に利用意向があること等について、買主および不動産会社が署名押印した書類 |
所有期間が5年を超えること | 譲渡する土地等に係る登記簿謄本 |
その他 | 売買契約書の写し |
なお、証明書類は、市町村によって独自のルールを定めているところもあるため、最終的には各市町村にてご確認ください。
2.有効な活用例
低未利用土地等は、「所有期間が5年超で、都市計画区域内の500万円以下の物件」であれば適用できるため、さまざまな物件で利用することが可能です。
中でも、取得費が不明の不動産は、低未利用土地等の100万円特別控除によって大きな節税効果を受けることができます。
譲渡所得の計算式の中には、以下のように取得費という項目がありました。
譲渡所得 = 譲渡価額 - 取得費 - 譲渡費用 - 100万円 |
例えば、古くから持っている土地であれば、購入額がわからないケースがあります。購入額がわからず取得費が求められない場合には、概算取得費と呼ばれるものを用いるのが一般的です。
概算取得とは、「譲渡価額の5%」で計算されます。そのため、概算取得費を用いてしまうと、譲渡所得が大きくなり税金が高くなってしまうという点がデメリットです。
そこで、低未利用土地等の100万円特別控除を利用すれば、概算取得費を用いた場合でも譲渡所得をかなり小さくすることができます。
控除額はたったの100万円という気もしますが、そもそも500万円以下の取引が対象であるため、100万円でも十分な節税効果を生むのです。
よって、特に取得費が不明のケースでは、低未利用土地等の100万円特別控除を積極的に活用することをおすすめします。
3.適用にあたっての注意点
低未利用土地等の100万円特別控除は、以下のようなケースでは適用できないことが注意点となります。
【低未利用土地等の100万円特別控除が適用できないケース】
・売主と買主が、親子や夫婦など特別な関係の場合。特別な関係には、生計を一にする親族、内縁関係にある人、特殊な関係のある法人などを含む。 ・譲渡する土地等について、他の控除制度(例えば居住用財産に係る3,000万円特別控除等)の適用を受ける場合。 ・適用を受けようとする低未利用土地等と一筆であった土地から分筆し、その分筆された土地等の譲渡について、前年又は前々年に低未利用土地等の100万円特別控除の特例を受けた場合。 |
まとめ
以上、低未利用土地等の100万円特別控除について解説してきました。
低未利用土地等の100万円特別控除とは、所有期間が5年超で都市計画区域内の500万円以下の物件を売却したときに利用できる節税特例です。
要件は比較的緩いため、広範囲の物件で利用することができます。特に、概算取得費を用いなければならないケースでは、節税効果は高くなります。要件に合致しそうであれば、積極的に利用を検討してみましょう。

竹内英二
不動産鑑定士・賃貸不動産経営管理士。不動産開発業務や不動産コンサルティング業務を経験し不動産投資の分野に精通している。代表取締役を務める(株)グロープロフィットは、不動産鑑定士事務所及び宅地建物取引業者であるため、最新の不動産動向も把握。
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