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マンション経営は法人化すべき? 法人化の目安と向いている人を解説

2020年8月21日

個人の所得税率が上がり法人の法人税率が下がる傾向にあることから、ここ数年、マンション経営の法人化が注目されています。

ただし、法人化はある程度規模が大きくないとメリットが出てこない仕組みです。小規模な物件であればむしろ個人のまま賃貸経営を継続する方がメリットもあります。

ではマンション経営の法人化の目安はどれくらいで、どのような人が法人経営に向いているのでしょうか。そこでこの記事では「マンション経営の法人化」について解説します。

1.法人化の目安

マンション経営の法人化の目安は、個人や法人の前提条件によっても異なるため、一概に所得がいくら以上なら法人の方が有利とは断定できないのが実際のところです。

ただし、一つの考え方として個人所得が1,000万円を超えたら法人化の方が有利という実務上の目安はあります。

個人の所得税率は、所得が大きくなるほど税率が高くなります。住民税率を10%と仮定した場合、所得に応じた所得税率と住民税率の合計税率は下表の通りです。

課税される所得金額所得税率住民税率合計税率
195万円以下5%10%15%
195万円を超え330万円以下10%10%20%
330万円を超え695万円以下20%10%30%
695万円を超え900万円以下23%10%33%
900万円を超え1,800万円以下33%10%43%
1,800万円を超え4,000万円以下40%10%50%
4,000万円超45%10%55%

法人の税率も条件によって異なりますが、資本金1億円以下の法人に対する実効税率は35%程度とされています。

法人税の実効税率とは、法人に課税される法人税、地方法人税、法人住民税、法人事業税等を合算した税金の所得金額に対する割合のことです。

法人の実効税率を35%と仮定した場合、個人の税率の方が高くなる境界は900万円超となります。

しかしながら、法人には設立費用や、法人住民税や税理士費用等の法人特有の維持費もあるため、おおむね1,000万円を超えれば法人化が妥当とされています。

ただし、1,000万円超の目安は一つの考え方にすぎないため、絶対的な正解ではありません。ここでは、ある程度資産規模が大きくならないと法人化のメリットが出てこないというイメージだけを持っていただければ幸いです。

条件次第では、もっと低い所得でも法人化した方が有利というケースは存在します。最終的に法人化すべきかどうかは、税理士にシミュレーションしてもらった上でご判断ください。

2.個人のままのメリット

基本的に、区分のワンルームマンションのような規模の小さいマンション経営をしている方は、法人化に向いていません。小規模の物件は、むしろ個人のまま不動産投資を継続した方が有利です。

この章では個人のままマンション経営を継続した場合のメリットについて解説します。

2-1.青色申告特別控除が使える

個人の場合、青色申告特別控除が使えるというメリットがあります。青色申告特別控除は、正規の簿記の原則に従い記帳を行うことで利用できる控除のことです。

青色申告特別控除を利用した場合の不動産所得の計算式は以下のようになります。

不動産所得 = 収入金額 - 必要経費 - 青色申告特別控除

青色申告特別控除の控除額は、10万円が原則です。10室以上のマンションで賃貸経営を行っていると事業的規模の扱いとなり、青色申告特別控除の控除額が55万円(e-Taxを利用している場合等は65万円)となります。

青色申告特別控除は法人にはない制度です。控除額は決して大きくはありませんが、区分のワンルームのような小さな物件に投資をしているときは、青色申告特別控除が利用できる個人の方がメリットは出てきます。

2-2.赤字のときに損益通算で節税できる

個人のままマンション経営をした場合、赤字のときに損益通算で節税できるというメリットがあります。損益通算とは、損失の出た所得を他の所得から控除できる制度です。

例えば、マンション経営において、「不動産取得税や登録免許税が発生する初年度」や、「たまたま空室や修繕が重なった期」では不動産所得が赤字になってしまうことがあります。

不動産所得が赤字となった場合、その赤字を給与所得から差し引いて総所得を小さくできるのが損益通算です。総所得が小さくなれば、所得税と住民税を節税することができます。

法人にしてしまうと、法人の赤字を個人の黒字に損益通算することはできないため、赤字になっても節税できないことになります。

2-3.法人の設立コストや維持コストが節約できる

個人のままマンション経営を続ければ、法人の設立コストや維持コストが節約できるという点がメリットです。

法人では設立コストがかかります。登録免許税や定款認証手数料、印紙代、印鑑代等を勘案すると、株式会社の場合、30万円弱の設立費用がかかるのが一般的です。

また、法人は赤字でも法人住民税の固定費がかかります。法人住民税は自治体によって金額が異なりますが、低くても7万円です。

さらに、法人は個人よりも詳細な帳簿付けが必要であり、通常は税理士費用も必要となります。

小さな物件で法人化してしまうと、青色申告特別控除が受けられないだけでなく、維持費も生じるのがデメリットです。

3.法人化に向いている人

マンションの法人化は、税率の観点から一般的に資産規模が大きい人ほど向いています。中でも法人は所得を移転しやすいというメリットがあることから、特に相続税対策が必要な人に向いています。

国税庁の「平成30年分相続税の申告事績の概要(PDF)」によると、平成30年中に相続税が課税された人の割合は全体の8.5%でした。この8.5%に含まれる可能性のある人たちは、積極的に法人化を検討すべきです。

相続税は現金納付が原則ですので、相続人が納税できる現金を持っていなければマンションだけを引き継いでも相続税が払えないという問題があります。

そこで法人化して子供たちを法人の役員にすれば、役員報酬という形で親族に所得を移転することができます。

早い段階から相続税の納税資金を相続人に蓄えさせることができるため、法人化すると納税対策ができるのです。

役員報酬による所得移転は法人ならではのメリットですので、相続税対策が必要な人はぜひ法人化を検討しましょう。

まとめ

以上、マンション経営の法人化について解説してきました。マンション経営の法人化には、個人所得が1,000万円超を目安とする一つの考え方があります。

区分のワンルームマンションのような小規模の物件の場合は、法人化には向いていません。個人のままマンション経営をしても、以下のメリットがあります。

・青色申告特別控除が使える
・赤字のときに損益通算で節税できる
・法人の設立コストや維持コストが節約できる

マンション経営の法人化は、特に相続税対策が必要な人が向いています。所得分散しやすいという特長を生かし、納税対策として活用することをおすすめします。


竹内英二

不動産鑑定士・賃貸不動産経営管理士。不動産開発業務や不動産コンサルティング業務を経験し不動産投資の分野に精通している。代表取締役を務める(株)グロープロフィットは、不動産鑑定士事務所及び宅地建物取引業者であるため、最新の不動産動向も把握。

※本記事は掲載時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。予めご了承ください。

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