新型コロナで賃貸不動産はどう影響する? 短期と長期のリスクを解説
2020年11月9日
新型コロナウイルスの猛威が世界的に広がっています。
日本だけでなく、各国で経済活動が落ち込んでいますので、景気への悪影響は長期化するのではないかと予想されています。
賃貸不動産をお持ちの人は、新型コロナウイルスが今後、不動産にどのような影響を与えていくのか気になっている方も多いのではないでしょうか。
そこで、この記事では「新型コロナウイルスが賃貸不動産に与える影響」について解説していきます。
1.賃貸不動産の価格に与える影響は限定的
景気が悪化すると、不動産価格も下落していくことが基本です。失業等で個人の所得が減っていけば、マイホームのような個人向け住宅の価格は下がっていくことが予想されます。
今後は恐らく新築分譲マンションのような物件が大きく値崩れし、それに連動して中古住宅価格も下がっていくことが考えられます。
一方で、賃貸不動産の価格については、価格下落は限定的であると思量されます。その理由としては、「リーマンショックと状況が違うこと」と「金利が既に低いこと」の2点があるためです。
リーマンショックのときは、賃貸物件も価格が大きく下落するという経験をしました。リーマンショックは、リーマン・ブラザーズが経営破たんしたことをきっかけに生じた不況です。
先に金融機関がダメージを受けたことで融資姿勢が厳しくなり、その後に実体経済まで悪くなっていった経緯があります。
当時は金融機関が投資家に融資をしなくなった結果、不動産の購入者が激減し収益物件の価格も下落していきました。
一方で、今回の新型コロナウイルスは先に実体経済への悪影響は出ているものの、現時点でまだ金融機関の融資姿勢が悪くなるといった状況に至っていません。むしろ、金融機関が中小企業に対して積極的に助け船を出している状況にあるくらいです。
そのため、リーマンショック時のように「借りたくても借りられない」という状況ではなく、借りようと思えば融資は受けられる状況にあるという点が大きく異なります。
また、収益物件の価格は低金利のときは高くなります。収益物件の価格を決定する利回りは、金利と連動して動くのが特徴です。
賃貸不動産の価格は収益価格と呼ばれますが、以下の算式で計算されます。
収益価格 = 不動産の生み出す収益 ÷ 利回り |
収益物件の利回りは概念上、金利に不動産のリスクプレミアムを加算したものと考えられています。
利回り = 金利 + 不動産のリスクプレミアム |
不動産のリスクプレミアムとは、立地や築年数等によるリスク概念を数値に反映したものです。
例えば、立地が良いほどリスクプレミアムは小さく、立地が悪いほどリスクプレミアムは高くなります。同じリスクプレミアムであれば、金利が低ければ利回りも低くなるのです。
昨今は、マイナス金利の導入によって金利は低いままとなっています。新型コロナウイルスの影響により、今後、金利を上げる政策を取ることは考えにくく、低金利の状態はさらに続くものと予想されるのです。
従って、以下の二つの理由により、賃貸不動産の価格はすぐには下がらないものと考えられます。
【賃貸不動産の価格がすぐには下がらない理由】
- 金融機関は健全であり、融資が受けやすい状況は続くと思われる。
- 低金利の状態はまだ続き、利回りも低い状況が続くものと思われる。
ただし、景気悪化が長引けば、不動産投資そのものが下火となり、そのうち賃貸不動産の価格も下がっていくと考えるのが自然でしょう。
2.短期的リスクはテナント退去
賃貸不動産は、短期的にはテナント退去のリスクが考えられます。既に、飲食店やアパレル、カラオケ等の業態がかなりダメージを受けていますので、これらの店舗が撤退してしまうことは予想されます。
新型コロナウイルスでは、同業種であれば似たような悪影響を受けていますので、これからテナントに退去されてしまうと後継テナントが見つかりにくくなってしまいます。
例えば、飲食店しか入らないような区画の場合、飲食店が抜けたら次の飲食店を見つけることは困難と思われます。
今までならすぐに次の飲食店が見つかったビルでも、同業種の後継テナントが見つからなくなる可能性は十分にあるのです。
そのため、業種が限定されるような店舗区画では、当面、賃料を免除してテナントをつなぎ留めておく対策も必要となってきます。
新型コロナウイルスが沈静化すれば再び店舗の集客が回復するはずですので、オーナー側もしばらく痛み分けをするという発想も必要です。テナントに退去されてしまう前に、早めに手を打つようにしてください。
3.長期的リスクはオフィス系が高い
長期的にはオフィスビルの賃貸需要が減退していくリスクが考えられます。今回、新型コロナウイルスの影響で多くの企業がテレワークを実施しました。
経営陣が、テレワークによってかなりのコスト削減ができると感じれば、今後、テレワークの導入は一気に加速していくことが予想されます。
テレワークが進めば、オフィスビルを広く借りる必要もありませんし、社員の交通費も節約できますので、企業はかなり利益を上げることができます。そのため、オフィスビルの賃貸需要が長期的に見て減っていくことは十分に考えられます。
オフィスビルの賃貸需要が減ることは、実はノマドワーカーが登場し始めた頃から囁(ささや)かれ始めていました。
ノマドワーカーとは、喫茶店等のオフィス以外のところで遊牧民のように仕事をする人たちです。
ノマドワーカーは、大きなオフィスビルを借りる意思決定権者ではないので、当時の懸念は杞憂(きゆう)に終わりました。
しかしながら、今回の新型コロナウイルスによって今後は大企業の経営陣もオフィスビルを広く借りる必要性がないと考える可能性があります。
大企業の借りるオフィスの賃貸面積が減少していけば、今後はオフィスビル市場全体に需要減が波及していく恐れがあります。
働き方が大きく変わることで、賃貸オフィスの在り方も大きく変わっていくかもしれないのです。
まとめ
以上、新型コロナウイルスが賃貸不動産に与える影響について解説してきました。
新型コロナウイルスによっても賃貸不動産の価格は、すぐには下落する状況にはないと考えられます。ただし、短期的にはテナントの退去リスクがあり、長期的にはオフィスビルの賃貸需要が減退していく懸念が予想されます。
状況は刻々と変わっていきますので、適宜、その時の最善策を取っていくようにしてください。

竹内英二
不動産鑑定士・賃貸不動産経営管理士。不動産開発業務や不動産コンサルティング業務を経験し不動産投資の分野に精通している。代表取締役を務める(株)グロープロフィットは、不動産鑑定士事務所及び宅地建物取引業者であるため、最新の不動産動向も把握。
※本記事は掲載時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。予めご了承ください。
お電話でも受付中
入力方法が分からない場合など、お気軽にお問い合わせください。
0120-952-261
受付時間:9:30~18:00
月~金曜日(祝日・年末年始を除く)